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ネオニコチノイドという農薬を知っていますか

ネオニコチノイドという言葉を、お聞きになったことがあるでしょうか。

「初耳」という方も、「殺虫剤」の成分と言えばイメージがわくかもしれません。

 

「浸透性殺虫剤」ともいわれるネオニコチノイド系農薬(※1)は比較的新しい農薬で、1990年代に登場しました。
ニコチンに似た成分をベースとしていますので、ネオニコチノイド、というわけです。

 

発売当初は「人には安全で、よく効く農薬」として認識され、世界中に広まっていきました。 日本でも農業用はもとよりガーデニングや家庭用殺虫剤、ペット用のノミ駆除剤や、建材の一部として大いに活用されています。

 

しかし世界を見渡せば、様々な国で規制がかけられるようになり。いつしか非常に「危険な農薬」として認識されるようになった……それがネオニコチノイドなのです。

 

ネオニコチノイドはなぜ危険?

~昆虫への神経毒性と食料危機の関係

 

植物の花粉を運ぶ生き物のことを「ポリネーター(花粉媒介者)」とい言います。このポリネーターがいなくなると、どうなるのでしょうか。果物や野菜を含め、多くの植物の受粉の多くが成り立たなくなるため、世界に食糧危機が起こるのです。

そんなポリネーターの中で、最も貢献度の高い生き物といえばなんでしょうか。それはミツバチです。なんと世界の農作物の約三分の一の受粉を担っているとされています。そんなミツバチの学習能力や記憶能力、飛行能力、生殖能力を低下させる大きな原因のひとつががネオニコチノイドなのです。これらが使われるようになった1990年代から、ミツバチの失踪や大量死が世界各国で報告されるようになりました。

 

もしミツバチがいなくなればスーパーに野菜がなくなり、食卓にパンがなくなる……そんな未来が待っているわけです。(※2)

ネオニコチノイドはなぜ危険?

~人間の脳の発達にも影響を及ぼす

残念ながらネオニコチノイドは人にも影響を及ぼします。

2013年、「脳の神経発達(記憶学習)にネオニコチノイドが関連している可能性がある」とEUが公式に発表しました(※3)。また日本でもADHDや自閉症との関連を懸念する声が上がっています(※4)。
さらには、きわめて濃度が低いものの、ネオニコチノイドが妊娠中の哺乳類の胎盤を通過し、胎児に移行していることが動物実験の結果、報告されています(※5)。

ネオニコチノイドはなぜ危険?

~浸透性が高く植物の隅々に行きわたる

さきほどご紹介した「神経毒性」以外にも、浸透性の高さがネオニコチノイドの特徴です。

植物の花粉や密、葉っぱの先まで、その成分がしっかりと行きわたります。
そのため洗っても残留農薬を落としきることが困難です。

 

また、水に溶けやすい性質のため、土や地下水、川や海を通して広い範囲にまで拡散されていきます。
拡散された先で別の植物が根っこからそれを吸い上げ、その花粉を昆虫や鳥が媒介する…というように、汚染が拡大しやすいことも特徴の一つです。

ネオニコチノイドはなぜ危険?

~残留性が高く土に残る

ネオニコチノイドは残留性が極めて高く、土の中によく残ります。なんと数か月から数年間持続するとされており、さらにはネオニコチノイドが分解されてできた物質の毒性は、元々の毒性と同じくらい、またはそれを上回る場合があるとの報告もあります。

 

世界で規制されるネオニコチノイド

~その逆を行く日本

このようにネオニコチノイドの特徴とは神経毒性や強い浸透性・高い残留性にありますから、ヨーロッパやアメリカ、南米、オセアニア、アジアなど、世界各国でその使用が規制されるようになりました。

 

例)EU:2018年12月3種のネオニコチノイド系農薬について屋外全面使用禁止施行/ドイツ:2015年冬小麦の種子への使用とその輸入禁止/フランス:原則18年9月より全てのネオニコチノイド系農薬を全面禁止/英国:2017年11月 2種の包括的な禁止について規制継続中/トルコ:2018年12月 3種のネオニコチノイド系農薬について使用禁止の緊急命令/アメリカ:2019年5月 バーモント州、農家などを除きすべての個人による屋外使用を禁止する州法制定/カナダ:2019年4月3種のネオニコチノイド系農薬についてカナダ保健省は2021年から規制強化を発表/ブラジル:2015年3種のネオニコチノイド系農薬について綿花の開花期に周辺での使用を禁止/台湾:3種のネオニコチノイド系農薬について17年5月ライチとリュウガンに対する使用を2年間禁止/韓国:3種のネオニコチノイド系農薬について、14年3月EUに準拠して使用禁止

 

ところが日本では2015年~2017年にかけて、ネオニコチノイドの大幅な規制緩和が行われました。残留農薬の基準値は高められ、新しい種類のネオニコチノイドも承認されたのです。

 

例)日本:2015年~2017年にかけて一部残留基準値緩和(2種)、大幅な残留基準値緩和(2種)、一部基準値を低減(1種)、残留基準値を低減(1種)、新規承認(3種)。4種のネオニコチノイド系農薬について、21年度優先再評価を告示(規制強化となるかは不明)

 

こういった状況に対し、日本でも様々な方面から「ネオニコチノイドを規制しよう」という声が上がっています。各地でシンポジウムや勉強会が広がり、SNS等で情報を拡散・収集する人たちも増えてきました。そんな中、自然栽培やオーガニックを選ぶということは、ネオニコチノイドの使用を規制していきたいという意思表示のひとつともなります。

 オーガニックを食べると
体内の残留農薬(ネオニコチノイド)が減少

 

体内のネオニコチノイド系農薬の量は、オーガニック食材を食べることによって減少することがわかっています。

NPO法人福島県有機農業ネットワークと北海道獣医学部毒性学教室の調査によると、有機栽培(オーガニック)食材を5日間とり続けることで体内の農薬(ネオニコチノイド)量が約半分となり、一か月続けると約1割にまで減少したとの結果が報告されました。

 

ネオニコチノイドについての研究や、生態系・健康についての調査はまだ十分ではありませんので、今後も当法人では情報を集めてまいります。また、今回のテーマが皆様と一緒に食の未来を考えるきっかけとなれば幸いです。

 

 

※1:ネオニコチノイドとは:ネオニコチノイドはアセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム。ネオニコチノイド系農薬としてはフィプロニルを含む。

※2:国連食糧農業機関(FAO)の試算による

※3:2013年に公式に発表。ニコチン性アセチルコリン受容体という神経細胞にネオニコチノイドが結びつき神経伝達に混乱をきたすという、ラットの細胞を使用した実験報告による。

※4:自閉症・ADHD など発達障害増加の原因としての環境化学物質 ――有機リン系,ネオニコチノイド系農薬の危険性(上・下)/ 黒田洋一郎氏・木村―黒田純子氏)

※5:第 28 回環境化学討論会,池中良徳,口頭発表(埼玉;2019 年)

ネオニコチノイドの母子間移行の実態と移行メカニズムの解明

https://www.actbeyondtrust.org/wp-content/uploads/2019/06/kankyokagaku.pdf

 

<参考>
浸透性殺虫剤タスクフォース「浸透性殺虫剤の生物多様性と生態系への影響に関する世界的な統合評価書https://www.actbeyondtrust.org/report/3705/

有機農業ニュースクリップ http://organic-newsclip.info/index.html

http://organic-newsclip.info/nouyaku/regulation-neonico-table.html

 

蜂
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