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肥料が環境に与える影響

農薬は害虫を取り除くために使い、肥料は植物に栄養を与えるために使われます。

しかし農薬や肥料がもたらす影響は、必ずしもメリットだけではありません。

前回は科学的な農薬や肥料は化学物質過敏症のリスクを高めるという話をしました。

次は環境問題という視点から、農薬や肥料がもたらすリスクについてみていきましょう。

特に今回は化学肥料に焦点を当ててみたいと思います。

この数年間、各地で食育講座を開催させていただき感じてきたことなのですが、農薬についてはネガティブなイメージを持っているのに、肥料についてはそこまで気にしていない方が多くいらっしゃるように思われました。しかし化学肥料というのは上手に使わないと、なかなかやっかいな代物なのです。

肥料が土壌に与える影響

1:土の成分と肥料が結びつき塩害のリスクを高める→植物が枯れる・成長できなくなる

 

塩害とは土の中に塩がたまってしまい、植物の成長を妨げてしまうことです。土の中の塩分によって植物が根っこから水を吸えなくなったり、水分が蒸発して枯れてしまったりするのです。

 

2:微生物の活動が少なくなり土が固くなる→根が張れない、水はけが悪くなる

 

土の中では多種多様な微生物が活動しています。微生物は土の中の「有機物(落ち葉や虫の死骸等)」を「無機物(窒素やリン等)」に分解する働きを担っており、そうしてできた無機物を、植物は栄養として吸収しています。

 

ところがここに化学的肥料を与えてしまうとどうでしょうか。化学肥料は植物の「直接的な栄養」として吸収されますが、それによって土の中の栄養バランスが崩れてしまいます。その結果、微生物の活動が低下してしまうのです。そうすると土は固くなり、植物が根を張りづらくなったり水はけが悪い土地になったりしてしまいます。(詳しいメカニズムを書くと長くなるのでこの辺で)。

 

3:どんどん肥料の量を増やさなくてはならなくなる→化学物質過敏症のリスクも高まる

 

2で解説しましたように、土が固くなると植物が成長しづらくなるため、土壌改良資材というものを毎年のように投入する必要が出てきます。それには当然コストがかかります。

また、微生物の活動が低下しているわけですから、土がやせていき(植物の栄養がなくなっていき)、その分、化学肥料の量もどんどん増やさなければならなくなります。コストがかかるだけでなく、それを食べる人にとっては化学物質過敏症のリスクも高まってしまうのです。(化学物質過敏症については前回の記事をご参照ください)

肥料が水質に与える影響

化学肥料の与えすぎは地下水汚染の原因となる、ということは、あまり知られていないかもしれません。

もちろん生活排水も地下水汚染の原因ではありますが、なぜ、化学肥料はそれらと同じく、地下水の汚染を引き起こしてしまうのでしょうか。その謎を解くカギは「硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)」というものの理解にあります。

「硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)」という言葉を普段の生活で耳にすることは少ないと思いますが、この硝酸態窒素の濃度が高まるほどに、水質汚染の度合いも高まってしまうのです。

硝酸態窒素とは何か、どんなリスクがあるのかは、別の記事で詳しく書こうと思いますが、これ自体は決して悪いものではありません。それどころか、植物の栄養となるものです。植物の三大栄養素(肥料の三大要素)は窒素(ちっそ)、リン、カリウムであり、その中の窒素を植物は「硝酸態窒素」の形で吸収しているのです。

化学肥料を与えると、この硝酸態窒素はすばやく植物に吸収されます。しかし、吸収されなかった硝酸態窒素は、雨や水やりによって、どんどん川に流れてしまいます。硝酸態窒素は体内で還元され、「亜硝酸態窒素」に変わると酸欠状態を引き起こしたり、発がん物質の生成に関与したりする可能性が指摘されており、実際に井戸水で作ったミルクを飲んだ赤ちゃんに酸欠状態が起こったことが報告されています(1996年)。

 

オーガニックを選ぶ=環境を守ること

オーガニックの基本は、化学的な肥料や農薬の使用を避けることにあります。

それは単に栽培のテクニック云々(うんぬん)のはなしではなく、自然環境の保護が大きなテーマでもあるからなのです。

今回、化学肥料という視点で環境への影響を掘り下げてみました。オーガニックを選ぶということは、土や水の汚染を防ぐこと、つまりは「生活環境」の改善につながる行為ともいえます。

化学肥料は便利ですが、上手に付き合う必要があります。もちろん化学肥料だけが土や水の汚染原因ではありませんし、今回の内容が慣行栽培への批判につながることは本意ではありません。

戦後、食料がなかった時代、多くの人の飢えをしのぐ助けとなったのは、やはり農業の近代化であり、それは化学農薬や肥料の使用を避けては通れなかったものだからと思うからなのです。

さて、次回は農薬が環境にもたらす影響についてみていきたいと思います。ぜひまた、お越しいただけましたら幸いです。

 

※参照:有機農産物検査認証制度ハンドブック(改定第五版)/農林水産省消費・安全局表示・企画課

※硝酸性窒素等による地下水汚染対策マニュアル /平成 28 年環境省 水・大気環境局 土壌環境課 地下水・地盤環境室

※有機JAS検査員資格保持者の監修の下、記事を作成しております

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